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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)220号 判決

原告

トランキー工業株式会社

被告

特許庁長官

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和54年審判第6303号事件について昭和59年7月18日にした、①昭和52年11月21日付手続補正、②昭和54年7月14日付手続補正に対する各却下決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告(旧商号代々木重機株式会社)は、昭和50年8月9日、名称を「杭打機」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和50年特許願第96876号)をし、昭和52年11月21日付で手続補正(以下「第1次補正」という。)をしたが、昭和54年3月24日拒絶査定を受けたので、同年6月14日審判を請求し、昭和54年審判第6303号事件として審理され、同年7月14日付で手続補正(以下「第2次補正」という。)をしたところ、昭和59年7月18日、「昭和52年11月21日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「第1次補正却下決定」という。)及び「昭和54年7月14日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「第2次補正却下決定」という。)があり、その謄本はいずれも昭和59年8月11日原告に送達された。

2  出願当初の明細書の特許請求の範囲

基台と、基台に立設した適数対の油圧シリンダーと、回転可能なチヤツクを備えていて杭を該チヤツクで支持固定するケーシングと、油圧シリンダーのシリンダーロツドの伸縮にケーシングが連動して昇降するように油圧シリンダーのシリンダーロツドとケーシングとを連結する部材と、ケーシングが油圧シリンダーのシリンダーロツドと平行移動するようにその昇降をガイドする部材と、各油圧シリンダーを独立に、もしくは、同期して駆動する装置とを備えたことを特徴とする杭打機。(別紙図面参照)

3  本件各補正却下決定の理由の要点

1 第1次補正却下決定

第1次補正により、特許請求の範囲を「ケーシングを適宜の部材を介して油圧シリンダーのシリンダーロツドに打設すべき杭の長手方向に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」とした点及び発明の詳細な説明の項において、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」とし、また、「油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13が連結部材12に前後方向に揺動可能にピンで枢止されている」とした点については、出願当初の明細書(以下「原明細書」という。)及び別紙図面(以下「原図面」という。)には記載されていないばかりでなく、また、これらの記載からみて自明な事項でもないものである。

してみると、第1次補正は、原明細書及び原図面に記載されている範囲内の補正とは認められず明細書の要旨を変更したものと認める。

したがつて、第1次補正は、特許法第159条第1項の規定で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものとする。

2 第2次補正却下決定

第2次補正は、補正の却下をされた昭和52年11月21日付全文明細書(以下「第1次補正明細書」という。)の一部を補正したものであるが、連結部材の両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に枢止した点及び2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する点については、原明細書及び原図面には記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項でもないものである。

してみると、第2次補正は、原明細書及び原図面に記載されている範囲内の補正とは認められず明細書の要旨を変更したものと認める。

したがつて、第2次補正は、特許法第159条第1項の規定で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものとする。

4  本件各補正却下決定の取消事由

第1次補正却下決定及び第2次補正却下決定は、第1次補正及び第2次補正がいずれも明細書の要旨を変更したものと誤つて判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。

1 原明細書及び原図面に記載された本願発明の技術課題、構成及び作用効果について

従来の一定の油圧力を使用した装置は、1本又は複数本の油圧シリンダーの全部を固定的に一方向(上下動等)に作動、操作させることにより、杭を圧入するという所期の目的を遂げようとしていたものであるが、この装置では、例えば、施工地の地質・地盤の硬さなどによつては、その抵抗により所定の深さまで杭を圧入沈下させる以前に杭の圧入作業を中途で停止せざるを得なくなり、さらに、杭が傾斜状態で圧入され始めるとその傾斜圧入傾向を修正しつつ打ち込むことが困難、不可能であり、このような場合別途の措置を講じなければならない欠陥があつた。

本願発明は、このような欠陥を解決して所望の結果を得ることを技術課題とし、その解決のために、杭の圧入装置として油圧シリンダー2本を一対にして具備させ、両側の油圧シリンダーを同期的に駆動させることはもちろん、両側の油圧シリンダーを別個独立に駆動させることができるようにし、また、油圧シリンダーの一端を基台の軸承にピンで枢止して油圧シリンダー自体を左右に揺動可能とし、連結部材は、両側部に設けた室に油圧シリンダーのシリンダーロツドの先端を挿入させて該シリンダーロツドをピンで枢止する構成を採用したものである。

そして、本願発明は前記構成を採用した結果、両側の油圧シリンダー3、3及びケーシング6等を垂直方向に保ち、該油圧シリンダー3、3の伸縮を同期的に繰り返して行つて該ケーシング6等を上下に移動し、これにより杭Pを順次地中に圧入することができるのみならず、杭Pの圧入沈下が地盤の硬さ等により中途で停止してしまつた場合、両側の油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13を伸長した状態より交互に縮めると、杭Pに対して左右方向運動を意図的に付与させ、杭Pに対する地盤圧密状態を減少させるなどして杭Pを円滑に圧入沈下させることができ、杭Pが傾斜状態で圧入され始めた場合、両側の油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13を同期的に縮めて杭Pを圧入させる作動、操作を中止して、いつたん杭Pを解放し、次いで、その一方を独立して、すなわち選択的に縮める作動、操作をすることにより、傾斜状態で圧入されつつある杭を垂直方向に修正して圧入沈下させることができるものである。このことは、原明細書の発明の詳細な説明中の「3、3は基台1の軸承2に一端をピン4、4にて枢止することにより基台1に対して垂直に立設した一対の油圧シリンダー」(第3頁末行ないし第4頁第2行)、「各油圧シリンダーを独立に、もしくは同期して駆動する装置」(第2頁第17行、第18行)、「12は、(中略)連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて枢止する。」(第5頁第3行ないし第10行)との記載並びに原図面(別紙図面)の記載から明らかである。

なお、本願発明の技術課題について、原明細書には、被告主張のように、「本発明は、ケーシング貫挿固定した杭を油圧で地中に圧入することにより、無騒音、無振動で杭を打設する。」(第2頁第6行ないし第8行)と記載されていることは認めるが、この記載は、原明細書中の「機械本体を移動させなくとも杭の打設する角度を任意に変化できる」(第3頁第11行、第12行)との記載からも明らかなように、杭に対する左右方向運動や杭の垂直方向の修正をも含むものである。

2 第1次補正却下決定について

第1次補正却下決定は、第1次補正により、(A)特許請求の範囲を、「ケーシングを適宜の部材を介して油圧シリンダーのシリンダーロツドに打設すべき杭の長手方向に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」(第1次補正明細書第1頁第9行ないし第12行。)とした点(以下「補正A」という。)、(B)発明の詳細な説明の項において、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」(同明細書第7頁第12行、第13行)とした点(以下「補正B」という。)、(C)同じく「油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13が連結部材12に前後方向に揺動可能にピンで枢止されている」(同頁第18行ないし第8頁第1行)とした点(以下「補正C」という。)について、いずれも原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められず、明細書の要旨を変更したものと判断した。

しかしながら、補正A、B、Cは、原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正であつて、明細書の要旨を変更するものではない。以下、その理由を詳述する。

(1)  補正Aについて

補正Aの技術的意義は、「基台上に適数対の油圧シリンダーを打設される杭の長手に対し左右方向に揺動可能にピンジヨイント」(第1次補正明細書の特許請求の範囲、第1頁第5行ないし第7行)することと関連している。すなわち、右にいう適数対の油圧シリンダーを、打設される杭の長手に対し左右方向に揺動させるには、この揺動を許すように、適宜の部材を油圧シリンダーのシリンダーロツドに連結(ピンジヨイント)する必要があるが、そのような連結の手段として、原明細書には、「12は、基台1に立設した一対の油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13を連結すると共に、シリンダーロツド13、13とケーシング6とを連結してシリンダーロツド13、13の伸縮にケーシング6を連動させるために用いる連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて枢止すると共に、前部に張出した取付板12b、12bにボルト15……でケーシング6を固定する。」(第5頁第3行ないし第12行)と記載されており、この記載から明らかなように、連結部材12の取付板12b、12bとケーシング6とをボルト15で固定し、一方連結部材12の両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13の先端を挿入して連結部材12とシリンダーロツド13、13の先端をピン14、14で「枢止」している。そして、ここに「枢止」とは、回転するように止めることを意味するものであり、このことは、軸受2、2のピン4、4による油圧シリンダー3、3の「枢止」について、(イ)原明細書に、「1は基台で、(中略)一対の軸承2、2を設置してある。3、3は基台1の軸承2に一端をピン4、4にて枢止することにより基台1に対して垂直に立設した一対の油圧シリンダーで」(第3頁第18行ないし第4頁第2行)あると記載され、この「軸承」は軸受と同意義であつて、回転運動又は直線運動をする軸を支える役目をする部材を意味すること、さらに、(ロ)原図面(別紙図面)第1図及び第2図から明らかなように、油圧シリンダー3、3の下端部が各一対の軸承2、2の間に挿入されて、軸方向にずれないようになつており、油圧シリンダー3、3とシリンダーロツド13、13が基台1に左右方向にピン4、4を中心にして回転するようにされていることからみて、軸承2、2は油圧シリンダー3、3を回転可能に支持するものであり、そこで油圧シリンダー3、3を「ピン4、4にて枢止する」とは油圧シリンダー3、3を回転するように止めるという意味で用いていることに照らしても、明らかである(軸受2、2のピン4、4による油圧シリンダー3、3の「枢止」を以上のように解することができることは、さきに摘記した原明細書第3頁第18行ないし第4頁第2行の記載に基づいてした第1次補正明細書中の前記「基台上に適数対の油圧シリンダーを打設されるべき杭の長手に対して左右方向に揺動可能にピンジヨイント」するとの記載部分が補正却下の理由として指摘されていないことからも裏付けられる。)。

以上のように、連結部材12はシリンダーロツド13、13の先端をピン14、14で、シリンダーロツド13、13が回転するように止める(枢止する)のであるが、連結部材12をシリンダーロツド13、13に連結するのに用いるピン14、14の軸心方向は、原図面第1図から明らかなように、油圧シリンダー3、3を左右に揺動可能にピンジヨイントする前記ピン4、4の軸心方向に対して直交するものであり、補正Aにおける「前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」とは、基台1に対してその前後方向に軸心の向いているピン4、4に対して直交方向に軸心が向けられているピン14、14を用いて、基台1に対する前後方向に回転可能にピンジヨイントすることを意味するものと理解すべきであり、これをピン4、4の「左右方向に揺動可能にピンジヨイントする」との説明と対比的に「前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」との表現を用いたまでであつて、このことは前述した原明細書及び原図面の記載から十分読み取れることである。

補正Aの構成は、前述の「基台上に適数対の油圧シリンダーを打設されるべき杭の長手に対して左右方向に揺動可能にピンジヨイント」するため、「ケーシングを適宜の部材を介して油圧シリンダーのシリンダーロツドに(中略)前後方向に揺動可能にピンジヨイント」する、すなわちシリンダーロツドを左右方向に揺動可能にするため、これと連結部材12とが摺動し得るように余裕を持たせてケーシング(それは連結部材12に連動する。)をシリンダーロツドに連結していること意味するものと解すべきであり、この構成により本願発明は前記1及びの作用効果を奏することができるのであつて、そうでなければ、「油圧シリンダーを揺動可能にピンジヨイント」することの技術的意義がないことになる。

したがつて、補正Aは、原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正であることが明らかである。

(2)  補正Bについて

補正Bの技術的意義は、前記(1)において述べたとおり、適宜の部材と油圧シリンダーのシリンダーロツドとのピンジヨイント部を利用し、油圧シリンダーを揺動し、前記1及びの作用効果を達成することにある。

ところで、原明細書の特許請求の範囲(第1頁第13行、第14行)及び発明の詳細な説明の項(第2頁第17行、第18行)には、「各油圧シリンダーを独立に、もしくは、同期して駆動する」と記載されており、ここに「各油圧シリンダーを独立に駆動する」とは、各々の油圧シリンダーを他の油圧シリンダーに依存することなく、若しくは他の油圧シリンダーに束縛され、あるいは支配されることなく駆動することに意味する。

もし、駆動させない油圧シリンダーを圧油の流路を遮断せずにフリーな状態にしておけば、連結部材12の存在により、その油圧シリンダーも油圧力により駆動している一方の油圧シリンダーの動作方向に追従することは明らかであり、これでは現象的に同期駆動と同じことになるから、独立駆動と同期駆動とを区別して記載した意味がない。しかも、前記状態においては、ケーシング等がシリンダーロツドを縮めて自重により下降して杭打機全体が転倒するなどの危険があるから、各油圧シリンダーを独立して駆動するときには、他方の油圧シリンダーは圧油の流路が遮断されて、駆動しない状態、すなわちシリンダーロツドが伸縮しない状態になつている必要がある。

してみれば、原明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された「各油圧シリンダーを独立に駆動」することは、補正Bの「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」を含むものであり、このことは、当業者にとつて原明細書及び原図面の記載内容から容易に読み取ることができる事項である。

(3)  補正Cについて

補正Cの技術的意義は、補正Aについて述べたところと同一であり、原明細書の前記第5頁第3行ないし第12行の記載及び原図面第1図の記載からして、補正Aについて述べたところと同一の理由により、補正Cは原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正であることは明らかである。

3 第2次補正却下決定について

第2次補正却下決定は、第2次補正について、(D)「連結部材の両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に枢止した点」(以下「補正D」という。)、及び(E)「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する点」(以下「補正E」という。)は、いずれも原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められず、明細書の要旨を変更したものと判断した。

しかしながら、補正D及びEは原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正であつて、明細書の要旨を変更するものではない。

(1)  補正Dについて

補正Dの技術的意義は、前記2(1)において述べたとおり、前記1及びの作用効果を達成することにある。

ところで、原明細書には、「(上略)連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて枢止する」(第5頁第7行ないし第10行)と記載されているから、補正Dのうち第1次補正で補正した個所は、厳密には「打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に」の部分に限定されるべきであるが、「枢止」とは、前記2(1)において述べたとおり、回転するように止めることを意味するものであり、原図面第1図に示すピン14、14の方向からもケーシング6、連結部材12、油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13及びピン14、14だけの関連構成をみれば、連結部材12及びケーシング6等が「打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に」なつていることは明らかである。

(2)  補正Eについて

補正Eは、補正Bと同一の記載内容であつて、その技術的意義及び補正Eが原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正であることは、前記2(2)において述べたとおりである。

第3被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の本件各補正却下決定の取消事由は争う。

本件各補正却下決定の認定、判断は正当であつて、本件各補正却下決定には原告の主張する違法はない。

1 原明細書及び原図面には、本願発明の目的は、「ケーシングに貫通固定した杭を油圧で地中に圧入することにより、無騒音、無振動で杭を打設する」(第2頁第6行ないし第8行)ことにあると記載され、第1次補正明細書には、本願発明の目的は、「杭を横方向から把持するチヤツクを備えたケーシングに貫通固定した杭を油圧で地中に圧入することにより、無騒音、無振動で杭を打設する」(第2頁第9行ないし第12行)ことにあると記載されており、本願発明は、原告の主張するような従来技術の欠陥、すなわち施工地の地質・地盤の硬さなどの抵抗により所定の深さまで杭を圧入沈下させる以前に杭の圧入作業を中途で停止せざるを得なくなり、さらに、杭が傾斜状態で圧入され始めるとその傾斜圧入傾向を修正しつつ打ち込むことが困難、不可能であつたという欠陥を解決して所望の結果を得ることを技術課題とするものではない。

また、原告の主張する作用効果についても、前記第2、4、1及びの作用効果は原明細書に記載がなく、第1次補正明細書の第7頁第8行ないし第8頁第1行にの作用効果に対応する記載が存するにすぎないから、これをもつて原明細書に記載された本願発明の奏する作用効果ということはできない。

2 第1次補正における補正A及びC、並びに第2次補正における補正Dについて

原告がした補正のうち、第2次補正却下決定において摘示した補正Dは、第1次補正明細書の第4頁第16行ないし第20行の「(上略)連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に枢止する」との部分を補正の対象とするものである。

ところで、ケーシングと油圧シリンダーのシリンダーロツドの連結機構については、原明細書には、「12は、(中略)連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて枢止すると共に、前部に張出した取付板12b、12bにボルト15……でケーシング6を固定する。」(第5頁第3行ないし第12行)と記載されているのみであつて、この記載中の「枢止」が回転を意味するとしても、「枢止」から、原告の主張する「摺動」とか、「揺動」という概念は出てこない。また、原明細書の特許請求の範囲(第1頁第10行ないし第12行)及び発明の詳細な説明の項(第2頁第15行ないし第17行)に、「ケーシングが油圧シリンダーのシリンダーロツドと平行移動するようにその昇降をガイドする部材」と記載されていることからしても、ケーシングはシリンダーロツドと平行移動するものである。

したがつて、「シリンダーロツド13、13が連結部材に前後方向に揺動可能に」ということは、原明細書及び原図面には記載がなく、補正A及びCは、原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められず、補正対象Dも該事項の範囲内のものとは認められない。

3  第1次補正における補正B、及び第2次補正における補正Eについて

第2次補正却下決定において摘示した補正Eは、第1次補正明細書の第7頁第12行、第13行の「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する」との部分であるが、その意味するところが同明細書第7頁第16行ないし第8頁第1行及び第2次補正明細書第2頁第10行ないし第14行の「本発明の杭打機によれば、油圧シリンダー3、3が基台1に左右方向に揺動可能にピンで枢止されているところから可能であり、しかも、その際に杭Pが打設法線から外れるおそれは全くないのである。」との作用(操作)に関連するところであつて、原明細書に記載されている「各油圧シリンダーを独立に駆動」するという記載の意味するところと内容的に変つたので、この点を補正却下の対象としたものである。

ところで、原明細書の特許請求の範囲(第1頁第13行、第14行)及び発明の詳細な説明の項(第2頁第17行、第18行)には「各油圧シリンダーを独立に(中略)駆動する装置」と記載されているのみであつて、この各油圧シリンダーを独立して駆動する状態、さらに各油圧シリンダーを独立して駆動する目的、構成、作用効果が記載されていない。原明細書から読み取れるのは、一方の油圧シリンダーをフリー状態(油圧力をかけない状態)で、他方の油圧シリンダーのみに油圧力をかけて駆動し、この駆動にフリー状態の油圧シリンダーを追従させて、杭を所望の深さだけ地中に圧入沈下させるものと理解できる程度である。このことは、原明細書の前記「ケーシングが油圧シリンダーのシリンダーロツドと平行移動するようにその昇降をガイドする部材」との記載からうかがい知ることができる。

したがつて、第1次補正明細書第7頁第8行ないし第8頁第1行及び第2次補正明細書第2頁第10行ないし第14行に記載された「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」についての構成、作用効果に関する事項は原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内のものとはいえない。

第4証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(出願当初の明細書の特許請求の範囲)、3(本件各補正却下決定の理由の要点)の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の本件各補正却下決定の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第2号証の三によれば、原明細書には、本願発明は、従来、天板、H形鋼、その他の杭を地中に打ち込むについては、ハンマーで杭の末端を打撃して地中に打ち込む方法か、バイプロで杭に上下振動を与えて沈下させる方法のいずれかが採用されているが、いずれの方法によつても、騒音、振動が激しく、その規制が厳しい都市部では採用が困難となりつつある(第1頁第18行ないし第2頁第5行)との知見に基づき、ケーシングに貫挿固定した杭を油圧で地中に圧入することにより、無騒音、無振動で杭を打設するようにすること(第2頁第6行ないし第8行)を技術課題とし、その解決のための技術手段として前記請求の原因2の特許請求の範囲記載のとおりの構成を採用し(第2頁第9行ないし第19行)、これにより、無騒音、無振動で杭の打設及び引抜きが行えるほか、機械本体の重量が10t内外となり、杭のガイドが不要で従来の杭打機の数分の1の高さにすることができるため現場への運搬に制限を受けることが少ない(第2頁末行ないし第3頁第7行)、既設建物の近くで使用しても該建造物及びその基礎等に害を与えることがなく、高い作業性を期待でき、しかも杭を強力に地中に圧入することができる(第3頁第9行ないし第15行)等の作用効果を奏する旨記載されていることが認められる。

原告は、原明細書及び原図面に記載された本願発明の技術課題は、施工地の地質・地盤の硬さなどによつては、その抵抗により所定の深さまで杭を圧入沈下させる以前に杭の圧入作業を中途で停止せざるを得なくなり、さらに、杭が傾斜状態で圧入され始めると、その傾斜圧入傾向を修正しつつ打ち込むことが困難、不可能であるという従来技術の欠陥を解決して所望の結果を得ることであり、その解決のために杭の圧入装置として油圧シリンダー2本を一対にして具備させ、両側の油圧シリンダーを同期的に駆動させることはもちろん、両側の油圧シリンダーを別個独立に駆動させることができるようにするなど前記請求の原因2の特許請求の範囲記載の構成を採用し、その結果、原告主張のないしの作用効果(前記請求の原因4、1記載)を奏するものである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第2号証の3によれば、原明細書に記載された技術課題は、前記認定のとおり、無騒音、無振動で杭を打設することにあり、その解決のために杭の打設手段に油圧シリンダーを用いて前記特許請求の範囲記載のとおりの構成としたものであつて、原告主張の技術課題については、何らの記載も存しないことが認められる。

この点について、原告は、原明細書中の無騒音、無振動で杭を打設するとの記載が杭に対する左右方向運動や杭の垂直方向の修正をも含むことは、原明細書に「機械本体を移動させなくとも杭の打設する角度を任意に変化できる」との記載があることから明らかである旨主張する。

前掲甲第2号証の3によれば、原明細書の発明の詳細な説明の項(第3頁第11行、第12行)には原告指摘の記載が存するが、この記載は、「把手9、9、9でチヤツクホルダー7を回動してチヤツクホルダー7内のチヤツク10を杭Pを打設すべき角度にセツトする」(第6頁第3行ないし第6行)の記載に相当するものであり、右にいう「杭の打設する角度」とは、杭Pをチヤツクホルダー7で把握し、チヤツクホルダー7を回動するときの杭Pの回動角をいうのであり、杭Pが左右方向に傾斜した場合の傾斜角をいうものでないことが認められるから、原告の前記主張は理由がない。

したがつて、原明細書及び原図面には、原告主張の技術課題及びその解決のために前記特許請求の範囲記載の技術的手段を採用したことが記載されているということはできない(原明細書及び原図面に原告主張の具体的構成及び作用効果が記載されているかという点は、第1次及び第2次補正の当否と直接関連する事項であるので、後記2及び3において詳しく検討する。)。

2(1) 成立に争いのない甲第2号証の5によれば、第1次補正は、原明細書の全文補正に係るものであつて、第1次補正明細書には、特許請求の範囲の一部として、「適数対の油圧シリンダーを打設されるべき杭の長手に対して左右方向に揺動可能にピンジヨイントし」たこと「ケーシングを適宜の部材を介して前記油圧シリンダーロツドに打設すべき杭の長手に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」たこと、「各油圧シリンダーを独立して、もしくは同期して駆動するようにしたこと」が記載され、また、発明の詳細な説明の項に、技術課題、作用効果に関して、原明細書に記載されているのと同旨の事項に付加して、「また、従来工法によれば、施工上打設すべき杭の長さを超える長さのリーダーを必要とするが、リーダーの転倒事故が多く危険が多い。そこで、本発明は、杭を横方向から把持するチヤツクを備えたケーシングに貫挿固定した杭を油圧で地中に圧入することにより、(中略)長大なリーダを不要としたもの」(第2頁第5行ないし第13行)であること、「施工地の地質構造によつては、2本の油圧シリンダー3、3を同期して駆動したのでは所定の深さまで杭Pを圧入沈下させる以前に杭Pの圧入沈下が停止してしまうことがあるが、このような場合、2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すると円滑に圧入、沈下させることができることが多い。このような操作は従来の油圧シリンダーを使用する杭打機にあつては不可能であつたが、本発明の杭打機によれば、油圧シリンダー3、3が基台1上に左右方向に揺動可能にピンで枢止されていると共に油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13が連結部材12に前後方向に揺動可能にピンで枢止されているところから可能である」(第7頁第8行ないし第8頁第1行)こと、その結果、「施工地の地質構造に対応して操作することができるわけであり、高度の作業性が期待できる」(第9頁第18行ないし第20行)という作用効果を奏するものである旨記載されていることが認められる。

ところで、第1次補正却下決定が第1次補正について、原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められないとした点は、特許請求の範囲を「ケーシングを適宜の部材を介して油圧シリンダーのシリンダーロツドに打設すべき杭の長手方向に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」とした点(補正A)、発明の詳細な説明の項において、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」とした点(補正B)、及び「油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13が連結部材12に前後方向に揺動可能にピンで枢止されている」とした点(補正C)であるが、それぞれの記載内容からみて、補正A及びCは、いずれもケーシングを適宜の部材を介して油圧シリンダーのシリンダーロツドに、打設すべき杭の長手方向に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントした構成であつて、ケーシングと油圧シリンダーのシリンダーロツドとの連結機構に関する事項であり、補正Bは、油圧シリンダーの作動機能に関する事項であることが明らかである。

(2) そこで、油圧シリンダーの作動機能について、原明細書及び原図面の記載事項に基づいて検討すると、前掲甲第2号証の3によれば、原明細書には、特許請求の範囲に「各油圧シリンダーを独立に、もしくは、同期して駆動する装置とを備えた」(第1頁第13行、第14行)と記載され、発明の詳細な説明の項に同文の記載がある(第2頁第17行、第18行)ほか、「この油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13を伸縮させる作業を反覆することによつて、杭Pを所望の深さだけ地中に圧入、沈下させることができる」(第7頁第14行ないし第17行)と記載されているが、ほかに油圧シリンダーの作動機能についての記載はないことが認められる。

右認定事実によれば、油圧シリンダーの作動機能については、原明細書及び原図面の記載からは、各油圧シリンダー3、3を同期して駆動してシリンダーロツド13、13を同時に伸縮させる作業を反覆すること、右作業により杭Pを所望の深さだけ地中に圧入沈下させることができることが理解されるのみであつて、「各油圧シリンダーを独立して駆動する」ことの作動機能については、その文言どおりに把握するほかなく、その技術的意義を一層明確にするだけの記載はない。

原告は、「各油圧シリンダーを独立に駆動する」とは、各々の油圧シリンダーを他の油圧シリンダーに依存することなく、若しくは他の油圧シリンダーに束縛され、あるいは支配されることなく駆動することを意味する旨主張する。

しかしながら、「各油圧シリンダーを独立して駆動する」との文言は、油圧シリンダーは他の油圧シリンダーの駆動と作動上関連をもつことなく駆動するという程度の意に解されるだけであり、右文言が補正Bにいう「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」を併せて意味するものということはできない。

また、前掲甲第2号証の3によれば、原図面第1図及び第2図に図示された本願発明に係る杭打機の両油圧シリンダー3、3を交互に駆動すると、両油圧シリンダー3、3は基台1に対して左右方向に傾斜することになるが、この傾斜によつて両油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13の間隔が狭まることは全体構造からみて明らかであり、両油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド13、13の端部は、ケーシング6に固定された連結部材12の両端部に形成された室12a、12aにおいて左右方向に軸心を持つピン14、14を介して前後方向に揺動可能に枢止されているが、このシリンダーロツド13、13はピン14、14の軸心方向に対して常に直角の位置関係にあると解されるから、油圧シリンダー3、3の交互の駆動によつて油圧シリンダー3、3が基台1に対して傾斜する際には、ピン14、14に対してその軸心方向に摺動できる(ピン14、14を介してシリンダーロツド13、13の端部の間隔が狭まる方向に摺動する。)構成であることが不可欠であることが認められる。しかしながら、前掲甲第2号証の3によれば、原明細書及び原図面には、シリンダーロツドの枢止構成に関しては、連結部材の「両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて枢止する」(第5頁第8行ないし第10行)と記載されているのみであつて、シリンダーロツド13、13の端部がピン14、14を介して摺動することについては何らの記載もなく(成立に争いのない甲第4号証の1、2によつても、「枢止」は、回転可能に支持することを意味し、軸方向に摺動するという概念をもたないことが認められる。)、原図面においても第1図にシリンダーロツド13、13の枢止の状態が点線で描かれているだけであつて、シリンダーロツド13、13の端部がピン14、14を介して摺動可能であることまで示しているといえないから、シリンダーロツド13、13の先端左右両側面と連結部材12の室12a、12aの壁面とに空間が認められることを考慮しても、シリンダーロツド13、13の端部がピン14、14に対してその軸心方向に摺動できる構成、ひいて「2本の油圧シリンダーを交互に駆動させる」構成が原明細書及び原図面に開示されているとはいえず、また、その全体の記載からみて自明な事項であるともいえない。

原告は、駆動させない油圧シリンダーも圧油の流路を遮断せずにフリーな状態にしておけば、連結部材12の存在により、駆動している一方の油圧シリンダーの動作方向に追従することが明らかであつて、これでは独立駆動と同期駆動とを区別して記載した意味がなく、しかもこの状態においては杭打機全体が転倒する危険があるから、各油圧シリンダーを独立して駆動するときには他方の油圧シリンダーは圧油の流路が遮断されて駆動しない状態、すなわち、シリンダーロツドが伸縮しない状態になつている必要がある旨主張する。

原告の右主張は、各油圧シリンダーを独立して駆動するときには、他方の油圧シリンダーは駆動しない構成になつていることを理由づける一般論を述べるものであるが、そのことから直ちに原明細書及び原図面には2本の油圧シリンダーを交互に駆動する構成が開示されていることにはならない。独立駆動時における他方の油圧シリンダーの状態がどうでなければならないかにかかわりなく、交互駆動の構成が原明細書及び原図面に開示されていないことは前記認定のとおりであり、原告の右主張は理由がない。

以上説示したところによれば、第1次補正明細書は、2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動して杭の圧入作業が途中で停止してしまう欠陥を解決する作動機能をも説明するものであるが、原明細書及び原図面には本願発明がこのような点を技術課題としていることを開示しておらず、補正Bは、第1次補正明細書において、新たにこのような欠陥の解決をも技術課題とし、これを解決するための構成を開示した結果加えられたものであることが明らかであり、原告が原明細書及び原図面に記載された作用効果として主張するもの(前記請求の原因4、1ないし)のうち、は2本の油圧シリンダー3、3を同時的に繰り返して作動させることによつて原明細書及び原図面に記載された構成のものの奏する作用効果であるが、及びは第1次補正において、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する」構成としたことによつて奏する作用効果であつて、原明細書及び原図面に記載された構成のものの奏する作用効果ではない

ところで、補正Bは、明細書の発明の詳細な説明の項の記載に関するものであるが、前掲甲第2号証の5によれば、右補正は、第1次補正に係る発明について、「適数対の油圧シリンダーを打設されるべき杭の長手に対して左右方向に揺動可能にピンジヨイントし」たこと、「ケーシングを適宜の部材を介して前記油圧シリンダーのシリンダーロツドに打設すべき杭の長手に対して前後方向に揺動可能にピンジヨイントし」たことを構成要件とすることにより、(油圧シリンダーを交互に駆動する場合において)油圧シリンダーが基台に対して傾斜する(揺動する)ことができる構成とし、さらに「各油圧シリンダーを独立して、もしくは、同期して駆動するようにしたこと」構成要件とし、かつ、この独立駆動について、発明の詳細な説明の項において補正B、すなわち「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動すること」と補正することにより、油圧シリンダーを同期して駆動し、あるいは交互に駆動する手段を有する構成と改めたものと認められる。そして、一対の油圧シリンダーを交互に駆動することは、原明細書及び原図面に記載した事項から自明なものではなく、また、特許請求の範囲に記載した技術的事項を実質的に変更するものであることは前記認定事実から明らかである。一般に、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前の補正は、願書に添附した明細書又は図面の要旨を変更するものでないことを要件として許されるのであり(特許法第53条第1項)、要旨変更の有無を認定する基準となるのは、「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲」(同法第41条)であつて、補正の内容がこの範囲内にとどまつているかどうかによつて要旨変更かどうかが決せられるところ、特許請求の範囲の記載は補正しないが、発明の詳細な説明又は図面を補正する場合、当該補正の内容が願書に添附した明細書又は図面に記載した事項からみて自明なものでなく、かつ当該補正によつて特許請求の範囲に記載した技術的事項を実質的に変更するものであるときは、当該補正の内容は願書に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとなり、当該補正は明細書又は図面の要旨を変更したものと解すべきであるから、本件において補正Bは明細書の要旨を変更したものというべきである。

してみれば、第1次補正却下決定が補正Bは原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められず、明細書の要旨を変更したものとした判断には誤りがなく、したがつて、補正A及びCについての判断の当否を審究するまでもなく、第1次補正は、特許法第159条第1項の規定で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきであるとした第1次補正却下決定(右決定は、本件特許出願に対する審査の段階で看過した要旨変更補正を審判手続において却下したものと解される。)には原告の主張する違法はないというべきである。

3  前掲甲第2号証の3、5、成立に争いのない甲第2号証の10に前掲第2次補正却下決定の理由の要点及び弁論の全趣旨を総合すれば、第2次補正却下決定が第2次補正について、原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められないとした点は、第1次補正明細書の発明の詳細な説明の項において、「連結部材で、両側部に設けた室12a、12aに油圧シリンダー3、3のシリンダーロツド端を挿入してピン14、14にて打設されるべき杭Pの長手に対して前後方向に揺動可能に枢止する」(第4頁第16行ないし第20行)とした点(補正D。決定は、原告の第2次補正のうち、この第1次補正明細書の発明の詳細な説明中に記載された事項を対象とする補正について、補正の内容そのものを説示しないまま、補正の対象たる記載事項が願書に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内とは認められない以上、当該補正の対象たる事項を補正することは許されないとした趣旨に出たものである。)、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する」(第7頁第12行、第13行)とした点(補正E。決定は、第2次補正が発明の詳細な説明について、「2本の油圧シリンダー3、3を交互に駆動する」ことは、「本発明の杭打機によれば、油圧シリンダー3、3が基台1に左右方向に揺動可能にピンで枢止されているところから可能であり、しかも、その際に杭Pが打設法線から外れるおそれは全くないのである。」と補正したこと(昭和52年11月21日付手続補正書第7頁第12行ないし第8頁第1行、昭和54年7月14日付手続補正書第2頁第10行ないし第14行)により、第1次補正明細書の発明の詳細な説明中の前記記載が右第2次補正記載の作用との関連において、原明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された「各油圧シリンダーを独立に駆動」するという記載の意味を内容的に変えたとみて、当該補正を却下すべきものとした趣旨に出たものである。)であると認められるところ、補正Eは、第1次補正における補正Bと同一の補正個所を補正するものであることが明らかであるから、これが原明細書及び原図面に記載された事項の範囲内のものとは認められず、明細書の要旨を変更したものというべきことについては、前記2における説示をここに引用する。

してみれば、第2次補正却下決定が補正Eは原明細書及び原図面に記載されている事項の範囲内の補正とは認められず、明細書の要旨を変更したものとした判断には誤りがなく、したがつて、補正Dについての判断の当否を審究するまでもなく、第2次補正は、特許法第159条第1項の規定で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきであるとした第2次補正却下決定には原告の主張する違法はないというべきである。

3  よつて、本件各補正却下決定の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(蕪山巖 竹田稔 塩月秀平)

〈以下省略〉

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